2020年04月10日
シリアにおける貧困と飢餓対策
世界食糧計画(WFP)は、2020年度の「世界の食糧危機の報告」を公表。新型コロナウイルス(COVID-19)感染拡大により、世界的な「飢餓」の永続化または悪化が懸念される。
シリアは2011年以来、極めて深刻な政治的混乱と社会的な崩壊を経験している。結果、2019年には、人口の少なくとも35%が食糧危機にあり、食糧難の上位10カ国に含まれていた。しかし、国際社会の協力、人々の揺るぎない地道な努力によって、変化の兆しが見えている。国内の多くの地域では、すでに平和を回復した。また降雨量も順調であり、農地の約70%で穀物生産を開始できるほどになった。
とはいえ、紛争から避難し、難民となった人々が帰国するには未だ問題が多い。破壊された灌漑システムの回復、社会的インフラの喪失は、特にシリア東部においては未だ不十分である。また、たとえ帰国しても十分な食料を生産し続けるために必要な、農機具や施設はすでに略奪され、破壊されている場合がほとんどだ。国連食糧農業機関(FAO)など国際機関により、1.5万世帯への種子提供と生産支援などが行われた。またイラク国境付近のデイズエゾーでは、約5,000世帯に水を供給する灌漑システムを復旧した。
しかし、そこにCOVID-19感染症が発生した。現時点では、そもそも検査設備の不足のためか、シリアにおいての発症例は、ほとんど確認されていない。しかし、感染リスクは非常に高い状態にあり、防疫措置は取られていない。また、感染拡大による各国の国境封鎖や物流停滞の長期化は、すでに不安定なシリアの「食糧安全保障」に直接影響し、数百万人の生活を悪化させると見られる。
シリアの人々が「貧困と飢餓」から抜け出すために、多くの支援がなされてきた。その効果も見え始めたにもかかわらず、現在、パンデミックによる活動時間帯の制限(同国の場合、18時から翌6時までは移動禁止、すでに公共施設は一カ月以上封鎖)は、低賃金労働者の生活を破壊することになっている。また、農作物も高騰している。この2週間でトマトの種子は一袋25ドルから31ドルに値上がりした。パンデミックによる輸入と移動の制限・遅延が、「貧困と飢餓」からようやく抜け出し始めた都市と農村の生活を再び襲う状況となっている。
©FAO/Sheam Kaheel